こんにちは、税理士の北本です。
2018年7月6日に成立した改正民法で、遺産分割の際に、残された配偶者が自宅に住み続けられる権利が新設されました。世帯主が亡くなった後の配偶者の生活を守ることは、社会的にも極めて重要な問題です。
そこで今回は2020年4月1日から施行される配偶者居住権についてご説明します。
これまでの問題点
夫婦と子供2人の家庭の場合で、夫が亡くなり、その夫の財産を法定相続分で分けるとしたら、妻が夫の財産の1/2を相続し、残りの財産を子ども2人で相続することになります。
例えば夫の財産が、自宅と預貯金で、自宅と預貯金の価値が同額だとします。
妻が生活していくために自宅を相続した場合、妻は法定相続分である1/2を相続しているため、預貯金を相続することができず、これまでの生活を維持していくことができなくなってしまいます。
また、自宅の価値が高く、預貯金が少ない場合であれば、子供が預貯金だけでは法定相続分まで相続できないため、自宅を売却して分割を望む可能性もあり、その場合妻はこれまで住んでいた自宅を失うことになります。
配偶者居住権の創設
このような問題点を解決するため、世帯主に先立たれた配偶者がその後の生活に困らないように、配偶者居住権が創設されました。
配偶者居住権が創設されたことにより、配偶者が居住していた自宅について、居住権と所有権を分離して考えることができるようになります。
配偶者が、被相続人が亡くなった時に被相続人と一緒に住んでいた自宅に居住していれば、配偶者が亡くなるまで、家賃を払うことなく自宅に住み続けることが可能です。
また世帯主に先立たれた配偶者に、住む権利だけを与えることにより、自宅に住んだまま、これまでより多くの財産を相続することができます。
配偶者居住権の分割
例えば、夫婦と子供1人の家庭で、自宅3000万円と預貯金2000万円を残して夫が亡くなったとします。その場合、妻と子供の取り分である法定相続分はそれぞれ1/2であるため、財産合計5000万円の1/2である2500万円をそれぞれ相続する権利があります。
これまでだと、妻が自宅に住み続けるために自宅を相続した場合、自宅3000万円が法定相続分2500万円を超えているため、子供に500万円を支払う必要がありました。ただそれでは、妻がその後の生活を維持していくことができません。
そこで新設された配偶者居住権により、自宅の居住権が1000万円であれば、法定相続分2500万円までの差額1500万円の預貯金も相続できることになり、残された妻の生活も確保されることになります。
換金できず評価の高い自宅について相続した場合は、それに見合う預貯金等が相続できませんでしたが、配偶者居住権のみ取得すれば、評価額が少なく済み、預貯金等の財産を取得することが可能となりました。
まとめ
これまでは、世帯主と同居している配偶者が、世帯主が亡くなったことにより、自宅を相続したとしても、預貯金等が相続できず生活に困窮する場合や、預貯金等の財産が少なく、住む家を売却して分割したために住む家を失う場合がありました。
今後は配偶者居住権が創設されたことにより、そのような配偶者も生活の基盤を確保する選択肢が増えたことになります。
この改正を踏まえ、世帯主の方は、残された配偶者が、自分の死後、生活の基盤を確保できるかを生前にじっくり考えておいていただきたいところです。